本ページに掲載する事例は、パスワード管理において一般的に発生する課題と、Zoho Vaultの機能によって想定される解決の流れをもとに構成したモデルケース(活用イメージ)です。特定の実在する企業・団体の導入事例ではなく、記載の企業名・数値も架空のものです。実在の導入事例をお探しの場合は、Zoho公式サイトで公開されている顧客事例をご確認ください。
ケース1:IT・受託開発企業(従業員80名)
導入前の課題
顧客ごとにサーバー、クラウド環境、管理画面のアカウントが存在し、その数は数百件にのぼっていました。管理表はプロジェクトごとにExcelで作られ、共有フォルダに散在。プロジェクトの担当者が変わるたびに、前任者が「必要そうなもの」をチャットで送るという運用が続いていました。
特に深刻だったのが顧客の本番環境の認証情報です。誰がアクセスできる状態にあるのか誰も把握できておらず、顧客から「御社では誰が当社のサーバーにアクセスできますか」と聞かれても、正確に答えられませんでした。また、協力会社のエンジニアに一時的に環境を触ってもらう際は、パスワードを直接伝えるしかなく、作業終了後にすべて変更する作業が毎回発生していました。
導入した設定
- 顧客単位でフォルダを作成。「顧客A/本番」「顧客A/検証」のように環境で分離。
- プロジェクトごとにグループを作成し、フォルダはグループにのみ共有。個人共有は原則禁止のルールを設定。
- 本番環境の認証情報は「自動入力のみ」の権限で共有し、開発メンバーには文字列を見せない構成に。
- 協力会社のメンバーには期限付き共有を使用し、契約終了日を期限に設定。
- APIキーやSSH鍵もVaultに集約し、ソースコードへの直接記述を禁止。
導入後の変化
最も評価されたのは、顧客に対する説明力が上がったことでした。「本番環境の認証情報は暗号化されて保管され、アクセスできるのは担当プロジェクトのメンバーのみ、アクセス記録は全件残っています」と、セキュリティチェックシートに具体的に記載できるようになり、大手企業からの受注時の審査がスムーズになりました。パスワード管理ツールの導入が、営業上の武器にもなった例です。
ケース2:製造業(従業員450名・AD運用あり)
導入前の課題
社内はActive Directoryで統一管理されていましたが、近年増えたクラウドサービス(生産管理、勤怠、経費精算、各種SaaS)はADの管理外にありました。結果として、入社時には7つのシステムへ個別にアカウントを作り、退職時には7つを個別に止めるという運用になっており、情報システム部の3名がこの作業に忙殺されていました。
さらに問題だったのは、退職者のアカウント停止漏れです。内部監査で過去1年分を確認したところ、複数のシステムで退職者アカウントが有効なまま残っていることが判明。是正勧告を受け、抜本的な対策が必要になりました。
導入した設定
エンタープライズプランを契約し、Active Directory連携を中心に構成しました。同期エージェントを社内の管理サーバーに設置し、対象を「社員」OU配下に限定。ADのセキュリティグループ(部署単位)をVaultのグループへ対応させ、部署ごとに必要なフォルダを共有しました。同期は毎日深夜1回の自動実行に加え、緊急の退職発生時には手動同期を実行する運用としました。あわせて、同期失敗時に情報システム部へ通知が届くよう設定し、AD障害に備えた緊急用管理者アカウントも別途用意しています。
導入後の変化
入社時の作業は「ADに登録する」の1工程に集約され、1人あたり約40分かかっていた作業がほぼ不要になりました。退職時も同様で、ADで無効化すれば同期によりVault側のアクセスも停止するため、停止漏れという事象そのものが起こりにくい構造になりました。翌年の内部監査では、監査ログを提出することで権限管理の実施状況を客観的に証明でき、前年の指摘事項はクローズされています。
効果の大きさは、単なる時間短縮ではありません。「人が忘れなければ大丈夫」という運用から、「仕組み上そもそも漏れない」という運用へ移行できたことが本質的な価値です。従業員数が多く、入退社が頻繁な組織ほど、この差は決定的になります。
ケース3:士業事務所(従業員15名)
導入前の課題
税理士事務所として、顧問先企業の会計ソフト、電子申告システム、金融機関のオンラインバンキングなど、極めて機密性の高い認証情報を多数預かっていました。しかしその管理は、所長のパソコンにあるExcelファイルと、各担当者の手帳。顧客の財務情報にアクセスできる認証情報が、実質的に個人管理という状態でした。
専任の情報システム担当はおらず、「何かしなければ」という意識はあっても、何から手をつければよいか分からないまま数年が経過していました。
導入した設定
プロフェッショナルプランを契約し、顧問先ごとのフォルダを作成しました。担当者と、そのバックアップ担当の2名のみに共有する構成とし、所長は全体を閲覧できる権限を保持。オンラインバンキングなど特に重要なものは、別フォルダに隔離して共有先をさらに絞りました。全員に多要素認証を必須化し、パスワードポリシーで最低12文字を強制しています。
導入後の変化
最も大きな変化は担当者の急な不在に耐えられるようになったことでした。以前は担当者が体調不良で休むと、その顧問先の作業が完全に止まっていましたが、バックアップ担当が同じ情報にアクセスできるため、業務が継続できます。また、顧問先から「情報管理はどうなっていますか」と聞かれた際に、暗号化とアクセス記録の仕組みを説明できるようになり、信頼獲得につながりました。15名規模でも、月額の負担は限定的です。
ケース4:医療法人(職員120名)
導入前の課題
電子カルテ、医事会計、検査システム、予約システムなど複数のシステムが稼働し、部門ごとに共用アカウントが使われていました。「受付共通」「看護部共通」といったアカウントを複数人で使い回す運用が常態化しており、パスワードは部門の掲示板に貼られている状態。誰が操作したのかを特定する手段がありませんでした。
医療情報を扱う以上、ガイドラインへの準拠が求められる一方、現場は多忙で、複雑な仕組みは受け入れられないという制約もありました。
導入した設定
まず、共用アカウントのうち個人アカウントに分離できるものを洗い出し、システム側の設定変更とあわせて段階的に個人アカウント化を進めました。どうしても共用が必要なものはVaultで管理し、「自動入力のみ」の権限で必要な職員に共有。パスワードは掲示板から撤去し、Vault経由でのみ利用できる状態にしました。監査ログにより、いつ誰がその認証情報を使用したかが記録されます。
導入後の変化
掲示板からパスワードが消えたこと自体が、職員の意識を変えるきっかけになりました。「誰が使ったか分かる」という前提ができたことで、アカウントの貸し借りも自然と減少。現場の操作は「拡張機能のアイコンをクリックするだけ」に統一されたため、パスワードを手入力していた頃よりむしろ業務が速くなったという声が多く聞かれました。セキュリティ強化と業務効率化が両立した例です。
現場の事情でどうしても共用アカウントが残るケースは珍しくありません。理想は個人アカウント化ですが、実現できない場合でも「パスワードをVaultに入れて、使用者と使用時刻を記録する」だけで、統制のレベルは大きく上がります。完璧を目指して何も進まないより、実行できる改善から着手することが重要です。
ケース5:小売チェーン(本部30名・店舗60拠点)
導入前の課題
全国60店舗それぞれで、POSシステムの管理画面、発注システム、店舗用SNSアカウント、Wi-Fiの管理画面などのアカウントを使用。店長の異動が頻繁で、引き継ぎのたびにパスワードが口頭やメモで伝達されていました。前任の店長が退職後もアカウント情報を保持している状態が常態化し、実態を本部が把握できていませんでした。
また、店舗SNSアカウントが不正利用される事案が業界内で発生しており、対策の必要性が経営層から指摘されていました。
導入した設定
- 店舗ごとにフォルダを作成し、「その店舗のスタッフ」グループにのみ共有。
- 店長の異動時は、グループのメンバーを入れ替えるだけで権限が移動する構成に。
- SNSアカウントなど重要度の高いものは「自動入力のみ」で共有し、パスワード自体を店舗に知らせない運用へ変更。
- 本部のスーパーバイザーは、担当する複数店舗のフォルダを横断して閲覧できる権限を設定。
- IPアドレス制限を活用し、店舗ネットワークからのアクセスのみ許可する運用を一部で適用。
導入後の変化
店長交代時の引き継ぎ作業が、グループのメンバー変更という数分の操作に置き換わりました。前任者は交代と同時にアクセス権を失うため、退職後もアカウント情報を持ち続ける問題が解消されています。60拠点という規模では、こうした人の出入りに伴う権限の付け外しが継続的に発生するため、自動化と一元管理の効果が特に大きく表れました。
5つのケースから見える共通の成功要因
業種も規模も異なる5つのケースですが、うまく機能した組織にはいくつかの共通点があります。導入を検討する際の参考にしてください。
1グループ単位で共有した
個人ではなくグループに共有する設計にした組織は、人の出入りに強い運用を実現しています。逆に個人共有を積み重ねた組織は、半年で管理不能に陥りがちです。
2重要なものから着手した
全件移行を目指さず、「漏れたら致命的な上位数十件」から始めた組織は、短期間で効果を実感し、その後の展開が加速しています。
3「自動入力のみ」を活用した
パスワードを見せずに使わせる権限を積極的に使った組織は、外部委託や人の入れ替わりに伴うパスワード変更作業をほぼゼロにできています。
4現場の使いやすさを検証した
導入前に一般社員へ試用してもらった組織は、展開時のつまずきが少なく、定着が早い傾向があります。抜け道が生まれにくくなります。
5ルールを明文化した
「共有はグループのみ」「パスワードは口頭・チャットで伝えない」といったルールを文書化した組織では、時間が経っても運用が崩れにくくなっています。
6定期的に棚卸しした
監査ログを使って半期ごとに権限を見直す習慣がある組織は、不要な権限が蓄積せず、常に健全な状態を保てています。
逆に、うまくいかないパターン
- Excel管理表をそのまま丸ごとインポートして終わり:権限が曖昧なまま移っただけで、統制は何も改善されません。
- 情報システム部だけで導入を決めて展開した:現場の業務実態と合わず、使われないまま形骸化します。
- 多要素認証を任意にした:結局ほとんどの人が設定せず、最も重要な防御が機能しません。
- 緊急時の備えを設定しなかった:担当者の退職やマスターパスワードの喪失で、実際にアクセス不能になる事故が起きます。
- 導入後に一度も見直さなかった:不要な権限が積み上がり、数年後には導入前と同じ「誰が何にアクセスできるか分からない」状態に戻ります。
ここまで見てきたとおり、成否を分けるのは製品の機能ではなく、フォルダ構成・グループ設計・権限ルールという設計と運用の決めごとです。ツールの導入作業自体は数時間で終わります。時間をかけるべきは、その前後にある整理と合意形成です。