02 / FEATURES

Zoho Vaultの主な機能
「ためる・わける・つなぐ・のこす」を図解で理解する

Zoho Vaultの機能は、①機密情報をためる、②権限をわけて共有する、③他システムとつなぐ、④操作記録をのこす、の4つに整理できます。ここでは各機能を図解しながら説明し、特に企業のIT管理者にとって価値の大きいActive Directory連携については、メリット・設定方法・運用上の注意点まで踏み込んで解説します。

1. パスワードの一元管理 ― 何をどう保管できるか

Zoho Vaultの出発点は、社内に散らばった機密情報を1か所に集めることです。ExcelやメモアプリではなくVaultに保存することで、情報は暗号化され、アクセスは制御され、操作は記録されます。

保管できる情報の種類

Zoho Vaultで管理する1件1件のデータは「シークレット」と呼ばれます。Webサービスのログイン情報だけでなく、業務上の機密情報を幅広く保管できます。

分類具体例保管する主な項目
クラウドサービスMicrosoft 365、Google Workspace、Salesforce、Slack、各種SaaSURL、ユーザーID、パスワード、多要素認証の情報
クラウド基盤AWS、Microsoft Azure、Google CloudアカウントID、IAMユーザー、アクセスキー、シークレットキー
社内システム基幹システム、勤怠、経費精算、グループウェア接続先、ID、パスワード、管理者用アカウント
インフラサーバー、ネットワーク機器、VPN、データベースホスト名、IPアドレス、root/Administratorパスワード、SSH鍵
開発者向けAPIキー、トークン、SSL/TLS証明書、コード署名鍵キー本体、発行日、有効期限、用途メモ
その他ソフトウェアライセンス、法人カード情報、金融機関情報、機密文書任意項目+ファイル添付

あらかじめ用意された種類(テンプレート)を使えば、必要な入力欄がそろった状態で登録できます。自社独自の管理項目が必要な場合は、カスタムのシークレットタイプを作成し、「契約番号」「更新期限」「管理部署」といった項目を自由に追加できます。パスワード以外のメモやファイルも一緒に保管できるため、「このサーバーの再起動手順」のような運用情報をセットで残しておくこともできます。

フォルダ(チャンバー)による整理

シークレットの数が増えると、探すのが大変になります。Zoho Vaultではフォルダ(チャンバー)を作って階層的に整理でき、フォルダ単位で共有権限を設定することも可能です。たとえば「部署別」「システム別」「顧客別」といった軸でフォルダを切り、そのフォルダごと該当チームに共有すれば、個別のシークレットを1つずつ共有する手間がなくなります。

フォルダ設計の実務的なコツ
  • 「誰に共有するか」を軸にフォルダを切る:システム種別で切るより、共有相手の単位で切るほうが権限管理が単純になります。
  • 階層は2〜3段まで:深くしすぎると、どこに入れたか分からなくなり、重複登録の原因になります。
  • 特権アカウントは専用フォルダに隔離:root、Administrator、クラウドのルートアカウントなどは一般フォルダと分け、共有先を厳しく絞ります。
  • 個人専用の領域も用意する:共有すべきでない個人アカウントは個人フォルダに入れ、共有フォルダと混ぜないルールにします。

タグ・お気に入り・検索

フォルダとは別に、シークレットへタグを付けることもできます。「本番環境」「要更新」「委託先共有中」といったタグを付けておけば、フォルダの階層をまたいで横断的に絞り込めます。よく使うものはお気に入り登録でき、検索窓からはシークレット名・URL・メモなどを対象に高速に検索できます。日々の業務では、この検索から目的の情報にたどり着く場面が最も多くなります。

2. チームで安全に共有する ― 権限設計の考え方

Zoho Vaultの最大の価値は、この共有機能にあります。パスワードをメールやチャットで送る代わりに、Zoho Vault上でユーザーやグループへ共有します。重要なのは、共有する際に「どこまでできるか」を選べる点です。

Zoho Vault のシークレット 共有時に「権限レベル」を選ぶ 参照のみ View ◯ パスワードを表示 ◯ 自動入力で使う × 内容の変更 × 他人への再共有 通常のメンバー向け 自動入力のみ Auto Fill only × パスワードを表示 ◯ 自動入力で使う × 内容の変更 × 他人への再共有 委託先・派遣スタッフ向け 編集可能 Modify ◯ パスワードを表示 ◯ 自動入力で使う ◯ 内容の変更 × 他人への再共有 システム担当者向け 管理 Manage ◯ パスワードを表示 ◯ 自動入力で使う ◯ 内容の変更 ◯ 他人への再共有 責任者・管理者向け
図2:共有時に選べる権限レベル。同じパスワードでも、相手の役割に応じて「見せる/見せない」「変えられる/変えられない」を切り替えられます。

「自動入力のみ」という強力な選択肢

4つの権限のうち、特に注目してほしいのが「自動入力のみ」です。この権限で共有された相手は、そのサービスにログインできるものの、パスワードの文字列そのものは画面に表示されません。つまり、「使えるけれど、知らない」という状態を作れます。

これは実務上、非常に大きな意味を持ちます。従来、外部の協力会社にシステムを触ってもらうときは、パスワードを教えるしかありませんでした。教えた以上、契約が終わったらパスワードを変更する必要があり、その変更作業自体が負担でした。「自動入力のみ」で共有すれば、契約終了時に共有を解除するだけで済みます。相手はパスワードを知らないので、変更する必要がないのです。

ユーザー単位とグループ単位

共有先はユーザー個人でも、グループ(ユーザーの集まり)でも指定できます。運用上は、できる限りグループ単位で共有するのが鉄則です。個人単位で共有していると、人が増えるたびに全シークレットを見直す必要がありますが、グループ単位にしておけば、新入社員をグループに追加するだけで必要な権限が一括で付与されます。異動や退職時も、グループから外すだけで関連する権限がすべて外れます。

よくある失敗:個人共有の積み重ね

導入初期に「とりあえず必要な人に個別共有」を繰り返すと、半年後には誰が何にアクセスできるのか誰も分からない状態になります。これは従来のExcel管理と本質的に変わりません。最初から部署・プロジェクト単位のグループを作り、共有先はグループのみという運用ルールを決めておくことを強くおすすめします。

期限付き共有と一時アクセス

共有には有効期限を設定できます。「今週いっぱいだけ触ってほしい」という場面では、期限を切って共有すれば、解除を忘れても自動的にアクセスできなくなります。人間が解除を覚えている必要がない、という点が重要です。権限の棚卸し作業を減らすうえで有効な機能です。

3. 自動入力とパスワード生成

ブラウザ拡張機能による自動入力

Google Chrome、Microsoft Edge、Firefox、Safariなどに拡張機能をインストールすると、ログイン画面を開いたときにIDとパスワードが自動で入力されます。利用者はパスワードを覚える必要も、入力する必要もありません。この自動入力は、登録したURLと一致する画面でのみ動作するため、見た目がそっくりな偽サイト(フィッシングサイト)ではそもそも入力されません。人間の目視確認より確実な防御になります。

強力なパスワードの自動生成

新しいアカウントを作るときは、Zoho Vaultのパスワードジェネレーターが推測困難なパスワードを自動生成します。文字数、記号・数字・大文字小文字の使用可否などを指定でき、「16文字以上、記号を含む」といった社内ルールに沿った文字列を1クリックで作れます。人が考えたパスワードは、どうしても推測されやすいパターンに偏りますが、自動生成なら偏りがありません。

パスワードポリシーの適用

組織としてパスワードポリシーを定義し、全ユーザーに適用できます。最低文字数、使用する文字種、有効期間(何日ごとに変更するか)などを定め、ポリシーに違反しているシークレットを一覧で洗い出せます。「弱いパスワードがどれだけ残っているか」を数値で把握できるため、改善活動の進捗管理にも使えます。また、パスワード強度のダッシュボードで、組織全体の健全性をひと目で確認できます。

4. シングルサインオン(SSO)

クラウドサービスへのSSO機能を利用でき、ユーザーは複数のパスワードを覚える必要がなくなります。Zoho Vaultは多くのクラウドアプリと連携できます。

用語シングルサインオン(SSO)とは、1回の認証で複数のサービスにログインできる仕組みのことです。「一度玄関の鍵を開ければ、家の中のどの部屋にも入れる」ようなイメージです。利用者の利便性が上がるだけでなく、パスワードを入力する回数が減るため、盗まれる機会そのものが減ります。

Zoho VaultのSSOは、あらかじめ用意されたテンプレートを使って主要なクラウドサービスと連携できます。利用者はVaultのポータル画面に並んだアイコンをクリックするだけで、各サービスへログインできます。管理者側から見れば、「どの社員がどのサービスを使えるか」をVault上で一元的に制御できることになり、退職時のアクセス遮断も1か所の操作で完了します。

なお、SSO関連の機能や、OktaやOneLoginといった外部のIDaaS製品との連携は、上位のエンタープライズプランで提供される機能です。プランごとの機能差については料金プランのページを参照してください。

6. 監査ログとレポート

誰がいつパスワードを閲覧・変更・共有したかを記録できます。内部統制や監査対応に役立ちます。SIEM製品との連携も可能です。

記録される操作

Zoho Vaultは、Vault内で行われた操作を自動的に記録します。記録の対象には、シークレットの閲覧・追加・変更・削除、パスワードのコピー、自動入力による使用、他ユーザーへの共有と共有解除、ログインの成功と失敗、設定変更などが含まれます。それぞれの記録には、実行したユーザー、日時、対象、操作内容、接続元の情報が残ります。

監査ログの実務的な使い道

  • インシデント発生時の追跡:あるアカウントが不正利用された疑いがあるとき、「そのパスワードに誰がアクセスできたか」「直近で誰が実際に閲覧したか」を短時間で特定できます。
  • 内部統制・監査対応:ISMS(ISO 27001)やPマーク、J-SOXなどの審査で「アクセス権限の管理状況を示す証跡」として提出できます。口頭の説明ではなくシステムの記録として示せる点が重要です。
  • 権限の棚卸し:長期間アクセスされていないシークレットや、共有されているのに一度も使われていない権限を洗い出し、不要な権限を削減できます。
  • 異常検知:通常業務では考えにくい操作(深夜の大量閲覧、短時間での連続アクセスなど)を発見する手がかりになります。

SIEM連携

用語SIEM(シーム)とは、社内の様々な機器やシステムのログを1か所に集めて相関分析し、攻撃や異常の兆候を検知する仕組みのことです。Splunk、Microsoft Sentinelなどが代表的な製品です。

Zoho Vaultの監査ログをSIEM製品へ連携すれば、Vault単体では見えない兆候を捉えられます。たとえば「深夜にVaultからサーバーの管理者パスワードが閲覧され、その直後に同じ端末から本番サーバーへログインがあった」といった、複数システムをまたぐ一連の動きを1つのイベントとして検知できます。SOC(セキュリティ監視チーム)を持つ組織では、この連携が運用の前提になります。

あわせて、パスワードの強度分布、ポリシー違反の件数、ユーザーごとの利用状況などをまとめたレポート機能も用意されています。経営層への報告や、セキュリティ施策の効果測定に活用できます。

7. その他の実務で効く機能

A緊急アクセス

担当者が急に不在になった場合に備え、あらかじめ指定した相手が一定の待機時間を経てVaultへアクセスできる仕組みです。属人化による業務停止を防ぎます。

Bパスワードの一括インポート

ExcelやCSV、他のパスワード管理ツール、ブラウザに保存された情報を取り込めます。移行作業の負担を減らせます。

C多要素認証(MFA)

ログイン時にパスワードに加えて、認証アプリのコードや生体認証などを求めます。パスワードが漏れても不正ログインを防げます。

Dモバイルアプリ

iOS/Android向けアプリで外出先からも安全にアクセス。指紋認証・顔認証に対応し、端末単位でのアクセス制御も可能です。

EAPIとの連携

アプリケーションからAPI経由でシークレットを取得できます。ソースコードにパスワードを直接書き込む危険な運用をなくせます。

F他システムとの統合

ヘルプデスクやチャットツールなど、業務で使うシステムとの連携に対応。日常の業務フローの中でVaultを自然に使えます。

機能はプランによって異なります

ここで紹介した機能のうち、SSO、AD連携、SIEM連携、外部IDaaS連携などは上位プランで提供されるものが含まれます。自社に必要な機能がどのプランに含まれるかは、料金プランのページで確認してください。